捕食者が駆動する被食者の行動の多様化:北海道に産する陸産貝類種群の例

森井悠太(東北大学・生命科学)

 陸産貝類は総じて,極めて移動能力の低い生物である.そのため,物理的な距離や障壁,環境の違いなどによって個体群が分断されやすく,遺伝的な変異や表現型の分化が生じやすい.このような特徴から,陸産貝類は,種分化や表現型の分化のメカニズムを解明するにあたって,非常に優れた対象であると考えられる.
 表現型の分化・多様化のメカニズムの解明は,進化生態学において最も重要な命題の一つである.その過程には、「資源をめぐる競争」が重要な役割を果たすと一般に考えられているが,その他の生物間相互作用が表現型の分化にどのような影響を与えるのかは,ほとんどわかっていない.数ある生物間相互作用のそれぞれの効果を,個別に評価できない事が一因と考えられる.
 北海道に生息する2種の近縁な陸産貝類において,外部刺激に対する著しい行動の種間差が,発表者によって発見された.それらの行動は,「資源をめぐる競争」以外の生物間相互作用の一つである「捕食―被食者間相互作用」が2種に大きな影響を与えていることを示唆するものであった.本発表では,新たに発見された行動形質が示唆する「捕食―被食者間相互作用」の被食者の表現型分化への影響について論じたい.また,このような生物間相互作用を扱う研究における,行動観察の重要性についても議論したい.

貝類を通して生命現象に迫る 3:貝類の行動